地方独立行政法人 大阪市博物館機構

プレスリリース

大阪市立自然史博物館:「忘れ貝」可憐な新種とそのゆくえ 万葉集・土佐日記に いう 貝 たち の「もののあはれ」と「鎖国の名残」

岡山大学学術研究院環境生命科学学域(農) の福田宏 准教授、 大阪市立自然史博物館の石田惣 主任学芸員、西宮市貝類館の渡部哲也 学芸員、香川県水産試験場の吉松定昭 元場長、国立科学博物館の芳賀拓真 研究員の共同研究チームは、従来分類が極端に混乱していた日本周辺産ワスレガイ属Sunetta 貝類の網羅的な分類学的再検討を行い、3新種(現生:ベニワスレ、 化石:モシオワスレ・シチヘイワスレほか5種(タイワンワスレ・シマワスレ・ランフォードワスレ・ワスレガイ・ミワスレ)の計 8種を認知 して、 それらの 種の実体 、定義 、識別点、分布域等を初めて明確化しました。 現生種のうちミワスレを除く5種は日本周辺に固有で、それら全てが浅海環境の悪化によって減少傾向にあるか、またはもともと産出例の少ない稀少種と判明しました。

本研究成果は7月 14日、日豪共同刊行の軟体動物学雑誌「 Molluscan Research」にオンラインで掲載されま した 。

発表のポイント

・アサリ・ハマグリ等と同じくマルスダレガイ科に属すワスレガイ属(Sunetta)は、万葉集や土佐日記等にも繰り返し登場するなど、日本人には古くから馴染みの深い海産二枚貝類の一群です。
・しかしその分類は混乱を極め、図鑑や論文ごとに種名と種 そのもの(個体・標本)と の組合せにまるで 一貫性がな く、誰も種の同定 1) を正確になしえないまま、長く放置されてきました。
・今回再検討を行った結果、日本周辺から 3新種 2)(現生 1・化石 2) を含む8種が認識 されました。新種の 一つベニワスレは 、 近年の環境悪化によって絶滅の危機にあることも判明しました。

■補足・用語説明
注1
: 同定・誤同定
同定とは厳密には、①特定の個体(標本)が、ある学名の記載・命名の基準となった標本(これを担名タイプ標本とよびます)と同種であるか否かを判断すること(同種ならその学名を適用できる)、②過去の文献上で学名の用法がいかに変遷してきたかを回顧し、ある種に対してどの学名を用いるのが現時点で最も妥当かを検討すること、と要約されます(ちなみに和名は、学名の補助的代替物であり、統一的なルールもない通俗名なので、フォーマルには学名が優先されます)。これに対して誤同定とは、担名タイプ標本と合致しない(あるいは比較検討すら十分に していない)のに根拠薄弱なまま同種または別種と決めつけ るなど 、適切な用法を逸脱してしまっている「同定」のことです。容易に入手できる市販の図鑑との絵合わせだけで「同定」を行うと、往々にしてそのような誤同定を生じます。また、 19世紀以前に記載・命名された種は多くの場合、その当時の標本が担名タイプ標本です。このため、最近の文献であればあるほど記載・命名の時点から長い時間が経過しており、その間に正解が忘れられて誤同定が混入しがちなので、新しい文献ほど多くの誤りが見られることも少なくありません。このため、正確な同定を 成すためには、つねに各学名の原記載(初出文献、原典)と担名タイプ標本に立ち返って検討し、それ以後現在までに刊行された主要な文献に目を通して、妥当性を見直す作業が必須となります。最新の文献が必ずしもあてにならず、古文書に遡らねば正解が得られないのは分類学に おいて 独 特の事情です。

注2:新種
新種という語は、未記載種が学名を与えられた時点の状態を意味し、厳密には新種 記載 (新たな学名の命名)がなされた活字刊行物中でのみ使用されますが、 慣用的にはその後しばらくの間 も用いられます 。 したがって新種とは、もっぱら学名の有無のみに関わる概念なので、例えば国内で古くから広く知られ、和名がある種であっても新種でないとは限りません(サザエはその典型例)。

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